開業初年度は設備投資がかさむ一方で、患者数の伸びに時間がかかることも多く、資金繰りに気を配りたい時期です。「節税」というと難しく聞こえますが、実際には開業準備の段階で使った費用の扱い方を知っているかどうかで、初年度の税負担は大きく変わります。無理のない範囲でできる考え方をご紹介します。

開業費は「繰延資産」として好きなタイミングで経費にできる

物件契約前の視察費用、内装工事の打ち合わせにかかった交通費、開業前の広告宣伝費など、開業準備のために使った費用は「開業費」という繰延資産として計上できます。開業費の大きな特徴は、任意償却が認められている点です。通常の設備は法定耐用年数に沿って少しずつ経費化しますが、開業費は好きな年に好きな金額だけ経費にできます。つまり、開業初年度は患者数がまだ少なく利益も出にくいため無理に経費化せず、2年目・3年目に利益が出たタイミングでまとめて経費にする、という調整が可能です。開業前の領収書は「経費にならないもの」ではなく「将来使えるタイミングを選べる経費」として、必ず保管しておきましょう。

青色申告のメリットを活用する

青色申告特別控除や赤字の繰り越しを活用できているかも確認しましょう。開業初年度に赤字が出た場合でも、青色申告であれば翌年以降3年間の黒字と相殺できます。開業費の任意償却とあわせて使えば、利益が出た年に開業費を経費化し、赤字の年はあえて経費化しないという柔軟な調整もできます。

設備投資は「購入」と「リース」で税務上の扱いが違う

項目
現金購入
リース
30万円未満の場合
少額減価償却資産の特例で全額即時経費化
毎月のリース料を経費化
初期資金の負担
まとまった支出が必要
初期負担を抑えられる
資産の所有
自己所有になる
契約満了まで所有権はリース会社

青色申告をしている個人事業主や中小企業であれば、30万円未満の設備投資について、一定の要件のもとで購入した年に全額を経費にできる少額減価償却資産の特例があります。施術ベッドや電気治療器などを購入する際、この特例を意識しておくと初年度の節税につながる一方、開業資金に余裕がない場合はリースで初期負担を抑え、資金繰りを優先する判断も選択肢のひとつです。どちらが有利かは、開業時の手元資金と、その年の利益水準によって変わります。

自宅兼治療院の家事按分

自宅の一部を施術スペースにしている場合、家賃や水道光熱費、通信費などを、事業で使用している割合に応じて経費に算入できます(家事按分)。按分の方法には床面積で分ける方法と、使用時間で分ける方法があり、実態に近い合理的な基準を選ぶことが重要です。「なんとなく半分」といった根拠のない按分は、税務調査で否認されるリスクがあるため、面積や時間の記録を残しておくことをおすすめします。

小規模企業共済への加入

個人事業主向けの退職金制度である小規模企業共済は、掛金の全額が所得控除の対象になります。将来の退職金準備をしながら、現在の節税にもつながる制度として、開業初期から検討する価値があります。

よくある質問

Q開業前に使ったお金は、レシートでも証拠として認められますか?
レシートでも問題ありませんが、何のための支出だったかが分かるよう、簡単なメモを残しておくと安心です。特に視察や打ち合わせの交通費・飲食費は、目的や同席者が分かる記録を残しておくことをおすすめします。
Q開業費はいつまで経費にできますか?
個人事業の場合、開業費の任意償却に明確な期限はなく、事業を廃止するまで繰り延べておくことも制度上は可能です。ただし、あまりに長期間放置すると管理が煩雑になるため、数年以内に利益とのバランスを見て経費化するのが実務上は一般的です。
Q法人成りした場合、個人事業の開業費は引き継げますか?
個人事業の開業費は個人の申告で経費化するものであり、そのまま法人に引き継ぐことはできません。法人化する場合は、法人として新たに発生した設立費用が、法人の繰延資産(創立費・開業費)として別途扱われます。

節税は、無理に支出を増やすことではなく、使うべきところに使ったお金を正しく、かつタイミングよく経費として計上することが基本です。治療院専門の税理士に相談すれば、業界特有の経費の考え方も踏まえたアドバイスを受けられます。

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